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連続ドラマレビュー
――その、時計館。あの、中村青司が設計した、建物の一つらしいんです。
by 江南孝明(演:奥智哉)
作品データ
原題:Huluオリジナル 時計館の殺人:第01話
監督:内片輝
脚本:戸田山雅司
原作:綾辻行人『時計館の殺人』
音楽:富貴晴美
主題歌:ずっと真夜中でいいのに。
「よもすがら」
製作:日本テレビ
配信:Hulu
出演者:
江南孝明:奥智哉
島田潔(鹿谷門実):青木崇高
福西涼太:鈴木福
瓜生民佐男:岡部ひろき
樫早紀子:吉田伶香
河原崎潤一:渡辺優哉
新見こずえ:阿部凜
渡辺涼介:藤本洸大
小早川茂郎:山中崇
内海篤志:今野浩喜
光明寺美琴:向里祐香
古峨倫典:伊武雅刀
古峨由季弥:志水透哉
伊波紗代子:神野三鈴
田所嘉明:矢島健一
野之宮泰斉:六平直政
島田修:池田鉄洋
中村青司:仲村トオル
※本レビューは第01話の完全ネタバレレビューとなります。
筆者は原作既読済み、配信全6話視聴済みですが、出来る限り01話時点のネタバレで語ります。
Huluドラマ『十角館の殺人』(2024),
および原作小説、コミカライズ等についても言及有。
総文字数:4569文字
読み終わるまでの時間:約12分
原作と同様の章立て進行
『時計館の殺人』のドラマ化は現状第一部はすべて原作の時系列通り、原作の章立ての通りに進行している。
前作『十角館の殺人』は原作の時系列を敢えてズラし、二つの舞台:角島と本島の時間軸を同期させる見せ方をしていたが、今回は画面に原作と同じ章のタイトルが区切りごとに表示されるという徹底ぶりだ。
《時間》がテーマの一つである作品で時系列をズラすことは原作の描きたかったことや、トリックの根本を破壊してしまう可能性もあるので、相変わらず原作本に対して真摯な作品作りで好感が持てる。
また、原作を後追いで読む人も、章ごとに後から比較して読むことも出来、そういった楽しみ方も良いのではないだろうか。
以下、感想を述べていく。
映像化箇所:原作【第1章〜第5章前半】
時計館の造形の素晴らしさとホラー演出
まず第一に何はともあれ、相変わらず美術セットの造形が素晴らしい。前作の十角館と違い、今回の時計館はまさに“館”と言うべきかなり広範囲な建物で、スケールも大きい。すべて実寸大でそのまま作られた十角館と違い、恐らくいくつかの部屋のセットをそれぞれ作り、廊下などはCG拡張もしているとは思うが、その広さや不気味さが遺憾無く表現されている。古風な屋敷で無数の時計に囲まれる圧迫感は、館の広さと反比例するかのように重苦しい印象を観る側にも与え、古峨永遠の言う「見張られている」もよくわかる作りだ。
108の時計がある時計館旧館……撮影に用いられた時計はどれも実物らしく、鹿谷役の青木崇高曰く「関東中の古時計がスタジオに集まっていた」とも言う。そのこだわりのリアリティが、まさに今回も中村青司の怨念のように館を現実のものにしている。
また、劇中の“交霊会”のシークエンスからも明らかな通り、どこからともなく現れる殺人鬼、幽霊の噂など、一種心霊ホラー的な演出もかなり多く含まれているのが原作の特徴だ。
ドラマ化でもホラー演出は随所に差し込まれ、それには旧館で常に鳴り続ける時計の「カチッ、カチッ」という音がも一役買っている。劇中で内海もボヤく通り、その音は非常に耳障りで不快感をもたらし、同時にとんでもない恐怖を生む。2026年現在、時計と言えば携帯(スマホ)の電子表示、自宅にもデジタル時計を置いている人の方が多く、時計の針が進む音や、それこそ振り子時計の音など馴染みのない人の方が多いだろう。
こうして劇中の不穏な空気の中で鳴らされると、時計の音というのはこんなに不気味だったものかと唸らされる。
時計回り?反時計回り→演出か偶然か
前作はまさにカメラワークが“叙述トリックの再現”にかなりの貢献をしていたが、今作でもカメラワークや映像の作り方にかなり面白い工夫が散見される。それが『時計館の殺人』らしく、時計にまつわるものになっているのが世界観の作りとして最高だ。
冒頭、プロローグにあたる江南が久しぶりに島田=鹿谷に再会するシークエンスでは、空からの俯瞰ショットで撮られたマンションの前の広場で、道ゆく人は皆時計回りに歩いている。そこに外部から入ってきた江南が、“反時計回り”に進んでマンションへと向かっていくのだ。
今作においての江南は事件の渦中に巻き込まれ、自ら時計館という“非日常”へと入り込んでいく。そうしたことを示唆するような映像に、開始早々期待が高まる。
また、これは多少考え過ぎな面もあるかも知れないが、今作のカメラはこのほかの場面でも全体的に時計の動きを模しているように感じる。
基本的にすべてのシーンにおいて、カメラの動きは左から右、つまり時計の針の正常な回り方と同じようにパンしており、人物の向きや、撮る方向も左から撮られているシーンが多い。
勿論、すべてがそうとは限らないし、物の位置や登場人物同士の立ち位置によってその限りではないが、基本的にはそうなるように撮られているように、第1話時点では感じる。
そして、交霊会以降の旧館は、それが逆になり、基本的に右から左へのパン、右方向から人物を捉えるカメラが増えていき、光明寺失踪時の捜査パートのみ左から右へのパン、江南と小早川の身体の向きや目線も左から右に変わっている。
これはある程度意識されているのか、はたまた偶然なのか、続きを観ていく上で注目したいものだ。
厚みを増す人間ドラマとイメージに違わないキャスティング
今作でも登場人物同士の人間関係は原作より厚めに描写されており、それぞれの普段の姿が透けて見えるようになっている。こうした人間ドラマの部分が原作以上に描かれるのが、この実写化シリーズの強みでもある。
基本的には皆原作に書いてある通りの人物であるし、細かな台詞の違いは当然あるとしても、動き自体は原作通りだ。しかし、その中で原作から解釈を膨らませたその自分のバックグラウンドや、それぞれの関係性がわかるように作られている。
W**大学ミステリー研究会の面々が霊衣に着替える際にふざけ合ってる姿や、部屋決めでじゃんけんをする姿、樫と新見が光明寺にミーハーな視線を送っているところなど、そういった細かな積み重ねが、ミステリーにおける【容疑者リスト】→【犠牲者リスト】に連なる彼らを“一人の人間”にする。
また、ミステリー研究会の一部登場人物はその子供時代、小学校の頃の姿も回想にて出てくるのだが……これもどの子も本当によく似ている!よくこれだけ面影のある子役を連れてきたものだと思わされるし、説明がなくとも誰が誰の過去だかは一目でわかる。眼鏡など大きな特徴がないキャラクターでもそう思わせるので、これはキャスティングの妙を感じる部分だ。
ミステリーを読む・観る際にどうしても被害者たちを数字的に見るようになるが、このシリーズはそれを許さない。そこもまた、現代的なアプローチとも言えるし、それがあるからドラマを観ながら常に感情移入もすることが出来る。
キャスティングとしても小説で読んだイメージとの悪い意味での乖離はない。前回のポゥと同じく髭の似合う男性が最近はいないのか(笑)内海が髭じゃなくなっていたりはするが、例えば新見の天真爛漫さや瓜生の気取ったイメージなど、読んでいた時のイメージにキャラクターの肉付けが乗っているのでより納得感が強くなる。特に河原崎と瓜生は小学生の頃から立場が逆転しているということもあり、ヴィジュアルイメージからも、見た目が派手目な河原崎と大人しそうな瓜生、とそれが窺えるのも良い配役だと思う。
小学校時代は頭のいい奴より運動できる奴がモテるのだ!……とはさすがに時代錯誤かも知れないが(笑)舞台が1989年だからそれもしょうがないだろう。
由季弥の家から出たことがなさそうな色白な透明感も、原作を読んでいたときのイメージにピッタリで、どこか芯のない言葉の放ち方も含め、その夢見心地な瞳はこの館に巣食う闇を想起させてくれる。
個人的には光明寺の明らかな胡散臭さはまさしく昭和〜平成初期のTV番組に出ていた霊能者の雰囲気で懐かしさを感じるし、江南のノートに貼ってあった何かしらの本のそでの切り抜きにある、光明寺の作者紹介欄の写真は「こんな霊能者いたなぁ」とノスタルジーを感じて笑えた。
鹿谷の家のワープロやフロッピーなどもそうだが、こうした小道具大道具へのこだわりが相変わらず素晴らしいのだ。
冒頭で登場する私服姿の光明寺の妙に気取ったセンスなども含め、あの頃のオカルトブームの渦中にいたインチキ霊能者たちの姿を忠実に再現していたと思う。
原作からの変更点〜『水車館の殺人』はドラマ化されるか!?
物語や登場人物の設定についても基本的に原作通りに進むが、細かい部分でオミットされたり、付け加えられている要素、再解釈された要素がある。
島田=鹿谷が『迷路館の殺人』を書いているのは確かだが、劇中ではそれが中村青司の屋敷での出来事を書いているかまでは明言されず、『水車館の殺人』についても触れられない。
前作含め原作通りに、江南-島田コンビが登場する作品だけを選んで製作してるようなので可能性は低いだろうが、もしかしたら『水車館の殺人』については登場人物に江南を加えて実写化する可能性も0ではないかも知れない。正直ここから先のシリーズはほとんどが本当に“実写化不可能”なので(笑)水車館に関しては可能性を残しておいてくれた方が、今後の楽しみも増えると言うものだ。
(しかし十角館をやったこの内片組ならそのうち『暗黒館の殺人』でアッと驚かせてくれそうではある)
何となく渡辺が新見のことを気にしていたり、新見と河原崎に何かしら関係がありそうだったり、それを樫が面白く思っていなさそうだったり……といった“大学生サークルあるある”もそこかしこの描写に見て取れ、そうした描写の積み重ねが彼らのキャラクターに血肉を与えている。
原作においても新見が河原崎を「女好き」という場面があったりもするので、原作の記述からうまくキャラクターを膨らませているのも脚本の真面目さが窺える。前作もそうだが、あくまで原作にまったくないものを付け足したりというのは基本的にないようにしているのは、実写化作品として非常に誠実だろう。
同じように内海の心霊への恐怖感をわかりやすくするために多少過剰なキャラ付けがされているので、プロのカメラマンとして帯同している割に最初から学生たちに当たりが強すぎる気もするが、この辺りもしっかり後の展開へと繋がっていくので、許容範囲内だ。
小早川が江南に由季弥を「頭がおかしい」と語るシークエンスや、伊波紗代子の補聴器設定もなし。これは現代の描き方として、障碍についての扱いに慎重になった結果だろう。
こうした、なくても成立する会話や、後の章で重複するシーンなどをうまくカットしつつ、第5章の前半までをうまく60分にまとめている。
章ごとに映像化していると言っても完全にそこで区切るのではなく、古峨永遠の血塗れのドレスが見つかったところで次回への引きを作るなど、連続ドラマ的な演出はきっちりやっているところも流石だ。
他の話の話も少しだけすると、毎話誰かの吐息や息遣いで終わる終わり方も、ホラー感を増していてニクい演出だと思う。
原作既読勢としても、屋敷の雰囲気や登場人物が実際に動くことでリアルな人間性を付与されたことで、まったく新しい新鮮な気持ちで作品を観ることが出来るし、まだ誰も死んでいないこの時計館でこれからどのような惨劇が起こるのか、期待に胸を膨らませながら観ることが出来た。
江南-鹿谷のコンビが久しぶりに観られたことも実に嬉しい。あの二人の会話から始まると、館シリーズが帰ってきた!という気がする。
今作ではそれぞれ活躍する舞台が分かれてしまうが、やはりこの二人の組み合わせは既に名コンビとして成立してるし、鹿谷が時計館に行けないと知って明らかに不満げな江南の姿も可愛らしい。
原作既読者勢による次回へのヒントと期待
原作未読勢には、この第1話でのヒント、そして今後の話を観る際に注目してほしいポイントも書いておきたい。
今作でよく注意してほしいのは
【音とヴィジュアル】である。
ざっくりし過ぎているかも知れないが、これ以上言うと過剰なネタバレになってしまうので、そこは勘弁願いたい。ただ、その二つの要素の違和感に気づけると、事件を推理する上でかなりのヒントになる。
まずは第1話、今回も本当に原作の再現度の高さにはリスペクトが詰まっていて最高の出来だったと思う。次回も同じように観ていこう。
第二部の解決編までは2週間ほどあるが、既に待ちきれないものだ。
第2話へ続く
→Huluドラマ『時計館の殺人』(2026)第2話完全ネタバレ考察レビュー
容疑者リスト
江南孝明:奥智哉
瓜生民佐男:岡部ひろき
樫早紀子:吉田伶香
河原崎潤一:渡辺優哉
新見こずえ:阿部凜
渡辺涼介:藤本洸大
小早川茂郎:山中崇
内海篤志:今野浩喜
光明寺美琴:向里祐香
古峨由季弥:志水透哉
伊波紗代子:神野三鈴
田所嘉明:矢島健一
野之宮泰斉:六平直政
島田潔(鹿谷門実):青木崇高
福西涼太:鈴木福
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