Prime Videoドラマ『スパイダー・ノワール』(2026)第1話「B・ライリー探偵社」ネタバレ考察レビュー

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連続ドラマレビュー

――街を見たか?悲惨な状況だ

by ロビー・ロバートソン(演:ラモーン・モリス)

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作品データ

原題:Spider-Noir S1.Episode01:Step Into My Office

監督:ハリー・ブラッドビア

脚本:オレン・ウジエル

原作:Marvelコミック『スパイダーマン・ノワール』

音楽:クリス・バワーズ

マイケル・ディーン・パーソンズ

主題歌:カービー

「Saving Grace」

製作:Sony Pictures Television

配信:Prime Video

出演者:

ベン・ライリー/ザ・スパイダー:ニコラス・ケイジ 

ジャネット・ルイス:カレン・ロドリゲス

ロビー・ロバートソン:ラモーン・モリス

フランキー:キャリー・クリストファー

フィン・バーン/シルバーメイン:ブレンダン・グリーソン

キャット・ハーディ:リー・ジュン・リ

フリント・マルコ:ジャック・ヒューストン

ルビー・J・ウィリアムズ:アマンダ・シュル

ウィンストン:ルーカス・ハース

パッジ:ジョー・マシンギル

ペリー:スコット・マッカーサー

ジェームズ“ジミー”アディソン:ジャック・マイクセル

パトリック・ドニゴール:キャメロン・ブリットン

本レビューは第01話の完全ネタバレレビューとなります

筆者は配信全8話視聴済みですが、出来る限り01話時点のネタバレで語ります。

Sony製作『スパイダーマン』シリーズ

および原作コミック等についても言及有。

総文字数:5294文字

読み終わるまでの時間:約12分

〜筆者より〜

来る2026年07月31日の『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』公開に向け、

敢えてMCUではなくSSUやかつての『スパイダーマン』『アメイジング・スパイダーマン』シリーズを取り上げてレビューすることにした。

折しもPrime Videoで『スパイダー・ノワール』が一挙配信したので、

まずは今週こちらのドラマ全話、毎日更新からやっていく。

読者諸氏もどうかレビューを楽しみつつ、未視聴の方は是非Prime Videoで観てみて欲しい。

目次

第1話短評

今回は連続ドラマの1話に相応しいチュートリアル的な内容となっており、今作の楽しみ方がしっかり伝わってくる作り。

小気味よくお洒落な会話の応酬、ハードボイルドでノワールな世界観、スパイダーマンシリーズらしい超能力を持つキャラクター、そして、探偵ものらしい、バディ・チームとしてのレギュラーキャラクターの存在。

48分の中にそれらの要素が過不足なく詰め込まれ、次回への引きや物語全体の謎もきちんと残す。所謂“スパイダーマンらしさ”よりも、ギャング映画やミステリーといった、硬派な世界観を好む視聴者に嬉しい作りだ。

作品の楽しみ方とマルチバースについて

まずは大前提、今作のタイトルは『スパイダー・ノワール』であり、原作コミックシリーズ『スパイダーマン・ノワール』や、映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)に登場したキャラクター:スパイダーマン・ノワールを直接的に実写化したドラマではない。そこを理解しておかないと、作品を楽しむ上で混乱が生じてしまうだろう。

本来、アメコミ作品での《マルチバース》という概念は、現在の《MCU(Marvel Cinematic Universe)》で設定された《神聖時間軸》……この場合一旦“正史”という言い方にしておくが、そういった考え方はそもそも存在しておらず、すべてのアースは並列な存在として扱われてきた。

これまで映像化されてきた映画作品やアニメ、ドラマなどもあくまで原作とは別アースの物語であり、観ている側の好き/嫌いはあれ、それぞれの設定や解釈、物語は尊重されるべきだ。

だからこそアニメ映画である『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)の劇中に実写のキャラクターが出てきたり、逆に実写映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)では、アメリカ・チャベスの能力によりアニメやコミックの世界:別アースへの移動が描かれたりもする。

今作の物語もそれを踏まえた上で、ニコラス・ケイジの演じる新たなスパイダーマンの物語として観るのが一番良い。

『スパイダーマン:スパイダーバース』でスパイダーマン・ノワールの声優を務めたケイジが主演:ベン・ライリーを演じるということで、この考え方を知らないと混乱するかも知れないが、二つの世界は“たまたま似通った”、同じような歴史を辿った世界だということだ。

同名キャラクターを別の俳優の演じる別の世界線のキャラクターとして表現するパターンも、同じ俳優で別の歴史を生きたキャラクターとして演じることもある、という考え方で良い。

今回第1話冒頭では、ベンの口からほんの少しだけマルチバースの存在に触れるシーンがあるが、これは観客=“第四の壁”の向こうに語りかけた、物語の前提説明のようなものだ。

今後シリーズが継続していけばマルチバースを移動したり、どこか別アースの映画作品やアニメーションと交わったりすることもあるかも知れないが、基本的には単体全8話のドラマとして充分に楽しめる。そこを押さえた上で、気楽な気持ちで観ていくのが良いだろう。

モノクロで観るか, カラーで観るか

配信前から大きく話題になっていたのは、今作はカラー版とモノクロ版を視聴の際に選択可能であるということだ。恐らく『スパイダーマン:スパイダーバース』で登場したスパイダーマン・ノワールがモノクロ作画だったことや、物語の舞台が《禁酒法》が制定されていた1930年代であることも関係しているのだろう。

このモノクロ舞台で描かれるハードボイルドな作風が、これまでのスパイダーマンのシリーズとは一線を画する雰囲気で、このドラマの売りの一つである。

ただ……正直な感想を言えば、モノクロでの視聴にそれほど大きな効果は感じられなかった。

勿論タイトル通りノワールな世界観や、モノクロだからこその画面の“見えにくさ”……そこに想像力を乗せる楽しみは存分に味わえるのだが、やはり元々がカラー・2020年代の撮影技術で撮られた映像であり、画の質感も、そしてそこに乗る位相や反響を意識して作られた現代的な音響にしても、どうしても不釣り合いで違和感を覚えてしまう。

逆にカラー版で観直してみると、敢えて少しくすませたライティングや、当時の服装や街並みを再現したセットに1930年代の空気感を色濃く感じることが出来るのだが、これをモノクロ加工すると、逆説的に“現代で撮られた映像である”ことがハッキリしてしまう。

不思議なことに、カラー版では1930年代に見える風景も、モノクロ版では2020年代のセットで作られたドラマに様変わりしてしまうのだ。

この理由は明らかで、当時のモノクロ映像……フィルムノワールのジャンルに見られた“暗さ”は、ロウソクやガス灯を光源にせざるを得なかった撮影環境の中で、暗部が潰れハイライトが飛んだことにより出来上がっている。

これが現代のデジタルHDR撮影では、光源も多様で、そうした潰れるべき暗部やハイライトはすべてカメラに映り込むのだ。

また、当時のフィルムで一般的だったオルソフィルムは、“青色から黄緑色の光にのみ”感光し、赤い光には反応しないという特徴がある。

故に、人の顔も黒く、皺やシミが強調されて映ってしまうため、当時の映画俳優は、まず顔を白塗りに近い状態にした後に、必要な部分を黄色などで暗くしていくメイクを用いていたと言う。

今作のカラー版を観れば分かる通り、キャスト陣にそんなメイクは施されていないので、質感が変わってしまうのは当たり前のことだ。

企画意図としては非常に面白く、意義のある試みだったとは思うが、モノクロの映像を作るのであれば、そうした時代の古い映画作品の撮り方や、フィルム独特の“ざらつき”まで再現しなくては、ただフィルターを掛けただけになってしまう。

今作はモキュメンタリージャンルの作品というわけでもなく、あまり細かいことを言うのも野暮ではあるが、単純な視聴体験なら素直にカラー版を観れば良いとは思う。

(時間の許す方は一度はモノクロでもお楽しみ頂きたいが)

しかし、セットや俳優の服装・髪型など、細かな描写は本当に丁寧に作られている。

1930年代のアメリカの、世界恐慌や禁酒法などの影響を受けた人々のどこか荒れた空気感や、第一次世界大戦の爪痕を残しつつもどこかアメリカ都市部に住む自由な中間〜富裕層の余裕がよく再現されており、日本人の筆者としては同じ時代の日本と比べてやはりその国力の違いはハッキリしたものだと感じる。

車や、電話機など、小道具類もきちんと時代に合わせたものが用意され、どこでも構わず紫煙を燻らせる煙草やタイプライターを叩く音など、ディテールの細かさが物語の雰囲気・リアリティを増してくれる。

老いたヒーロー:ベン・ライリーの哀愁

基本的に“不殺”であるスパイダーマンと違い、そもそも原案であるコミック版『スパイダーマン・ノワール』が拳銃を手に殺人も厭わない主義のキャラクターである。

今作でもベンは拳銃を携行しており、銃で撃ち合ったり、ギャングであるシルバーメインや部下による拷問のシーンもしっかりと描写される。それでいて、軽妙な会話やエスプリの効いた皮肉などで笑えるシーンもきちんとあり、そういった物語の作りは本当にモノクロ時代の映画的で、会話劇として観ても楽しめる。

キャスト陣の演技も、抑えたものから、動作をわざとらしく大きくしているシークエンスまであり、やはり古い映画をオマージュして演出・演技しているのだと思う。

今作はアクションよりもキャラクターの魅力で視聴者を引き込むドラマであり、やはりスパイダーマン(今作では“ザ・スパイダー”)稼業を引退し、スーツを捨てすっかり老いさらばえている主人公:ベン・ライリーの姿が印象的だ。

かつては『フェイス/オフ』(1997)や『コン・エアー』(1997)で激しいアクションをこなし、アメコミヒーローとしても『ゴーストライダー』(2007)を演じたニコラス・ケイジも御歳62歳……当然昔のように激しいアクションで魅せることは、役者として求められてもいないだろう。

走ってきた車の開くドアにぶつかって失神したり、調査対象であるキャット・ハーディを追いかけるのに最上階まで階段で登る姿には、実に哀愁が漂っている。

過去のトラウマからザ・スパイダーのスーツと能力を捨て、探偵としてもその能力にそこまでの信用はないのか、二重契約された調査依頼ではライバルよりも安い値で雇われてしまう。ドニゴール死亡後のウィンストンの言葉を聞く限り、調査への期待もされている様子はなく、依頼に市長や街のギャングの大物が絡んでいれば依頼料も放棄してあっさりと諦めてしまう。

ホームレスであるフランキーにはスリを許し、依頼と関係ない面白男の写真を撮り、依頼人からの握手の後には神経質に手を拭く……そんなヒーローとはかけ離れた物語現在のベンの姿を、丁寧に描写していく。

最高のレギュラーキャラクターが彩る探偵物語としてのスパイダーマン

“探偵もの”と言えば探偵助手=ワトソン役も重要な役どころの一つだ。連続ミステリードラマは良き脇役、仲間たちがいることでその魅力がいや増すが、今作のレギュラー陣も本当に素晴らしく、今後のシリーズ継続の方向は現時点でまだわかっていないが、このレギュラー陣は是非とも全員続投でお願いしたいものだ。

秘書であるジャネットは観察眼鋭く、ベンが撮ってきた写真に映るのが現職市長であることをベンよりも早く見抜き、ベンを脅すウィンストンには躊躇いなく銃を向ける胆力もある。

市長と関わるのが怖いなら女の側と交渉すれば良い、と機転も効き、ベンに発破をかけられる存在。

デヴィッド・スーシェ版『名探偵ポワロ』(1989〜)のドラマでのミス・レモンを思わせる優しさと包容力を持ちつつ、ベンとの間にロマンスの匂いを感じさせない距離感が丁度良い。

記者であるロビーは『スパイダーマン』シリーズではお馴染み《デイリー・ビューグル》の元記者であり、ベンの正体を知る唯一の存在で、その記事を書くことで仕事を得ていた存在でもある。

当然、ザ・スパイダーが雲隠れしてからは仕事もなくなり会社も去っているようだが、それを恨む様子もなく、ベンを心から心配している。記録者としてのワトソン的役割でもあり、自身も独自捜査を行う有能さもある。

原作コミック『スパイダーマン』においてはデイリー・ビューグルの編集者であり、ピーターやスパイダーマンに冷たい編集長のJ・ジョナ・ジェイムソンと違い中立的な立場の存在でもある。今作予告編でも登場が予感されているトゥームストーンとは高校の同級生という設定もあり、その絡みも期待できる。

劇中舞台は1930年代……黒人への人種差別が今とは比べ物にならないほど苛烈な時代設定の中で、白人であるベンと友情を育む様や、そうした差別に対する目線も今後の物語で語られるのではないだろうか。

ホームレスの少年フランキーもベンを尾行するフリントの存在を伝えたりと、要所要所で活躍が期待できる。ホームレスを協力者として雇うのは『シャーロック・ホームズ』的でもあり、日本の探偵小説『名探偵明智小五郎』の少年探偵団も想起される。

こうした往年の探偵ものへのオマージュも随所に見られるのが非常に楽しい。

レギュラー陣に限らず、追われながらも失神したベンを心配している様子のアディソンや、ギリギリまで攻撃をしようとはしなかったフリントなど、ヴィラン側の描写も細かく、ベンを口説く酒場の女性や脇が甘く第1話でアッサリとシルバーメインの手に掛かるドニゴールなどゲストキャラクターも丁寧に演出されており、人間ドラマとして非常に厚みがある作りになっている。

次回へ向けて……

映画作品と違い、時間的余裕のあるドラマシリーズでは必ずしも第1話でオリジンは語られない。伏線や登場人物の関係性を匂わせながら、物語の設定……今作で言えば超能力的なザ・スパイダーを始めとするキャラクターの能力なども、違和感なく観客に示さねばならない。

今作では人間描写の細かい所作を丁寧に演出しているので、物語のリアリティラインが上がり、ハードボイルドで重厚な世界観に説得力が増している。

その上で、ラストはしっかりとザ・スパイダーとサンドマン=フリントの闘いも見せ、これが『スパイダーマン』に連なるシリーズであることは明確に示していく。

また、全身を炎に変える能力がありながら銃で撃たれれば当たり前に死んでしまうアディソンなど、超能力で“なんでもアリ”ではないこともしっかり描写しているのは、第1話でこのドラマの見せ方を宣言する意味で非常に良かったと思う。

これまでにないほどに登場人物の平均年齢も上がり、大人の雰囲気のスパイダーマン。

終盤では原作『スパイダーマン・ノワール』でのヒロインの役割を担うフェリシア・ハーディ(=ブラックキャット)が元ネタであろうキャット・ハーディも接触してきており、ここからどのように物語が展開するのか。

ベンはクラブでキャットを一目見た瞬間から目を奪われており、フリントとの関係や、ベンの死んだ恋人であるルビーとの過去も合わせ、複雑な物語が構築されるのが期待できる。

第2話からが本編のスタートである。

第2話へ続く

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