特別企画:毎日更新
連続ドラマレビュー
前話レビューはコチラ

――驚かすな
――誕生日の時も?
by ベン・ライリー(演:ニコラス・ケイジ)/キャット・ハーディ(演:リー・ジュン・リ)
→『スパイダー・ノワール』を観る・購入する
作品データ
原題:Spider-Noir S1.Episode02:Tread Lightly
監督:ハリー・ブラッドビア
脚本:クリストファー・チェン
原作:Marvelコミック『スパイダーマン・ノワール』
音楽:クリス・バワーズ
マイケル・ディーン・パーソンズ
主題歌:カービー
「Saving Grace」
製作:Sony Pictures Television
配信:Prime Video
出演者:
ベン・ライリー/ザ・スパイダー:ニコラス・ケイジ
ジャネット・ルイス:カレン・ロドリゲス
ロビー・ロバートソン:ラモーン・モリス
フランキー:キャリー・クリストファー
フィン・バーン/シルバーメイン:ブレンダン・グリーソン
キャット・ハーディ:リー・ジュン・リ
フリント・マルコ:ジャック・ヒューストン
ルビー・J・ウィリアムズ:アマンダ・シュル
ウィンストン:ルーカス・ハース
パッジ:ジョー・マシンギル
ペリー:スコット・マッカーサー
アルフレッド・モリス:マイケル・コストロフ
アディソンの妻ベラ:ウィットニー・ライス
※本レビューは第02話の完全ネタバレレビューとなります。
筆者は配信全8話視聴済みですが、出来る限り02話時点のネタバレで語ります。
Sony製作『スパイダーマン』シリーズ
および原作コミック等についても言及有。
総文字数:4873文字
読み終わるまでの時間:約12分
第2話短評
第2話からは本格的に物語が動き出すが、今作は1930年代のアメリカを描くにあたり、かなりリアルな時代考証がなされており、その描写の細かさが物語のリアリティと作品全体の深みを底上げしている。
第1話に引き続き、そんな探偵ものとしての硬派さに加え、きちんとスパイダーマンらしいアクションもドラマ後半には用意し、1話48分をバランス良く演出しているのは見事だ。
歴史的背景を知っていると面白い細かな演出
例えば今回、ジャネットがフリントの情報を集める際に《デリカテッセン》の袋を持っていくのは、禁酒法時代のある文化によるもの。
アメリカ禁酒法時代、デリカテッセンと呼ばれるサンドイッチや惣菜販売店は、裏では酒類を密売する“スピークイージー”というモグリ酒場や、そのフロント企業として存在しており、法をかいくぐって酒類を売るための重要な拠点になっていた。つまり、あれは普通には手に入らない酒を与える代わりに有益な情報を得ようとしているシークエンスであり、あのやり取りを見るに、ジャネットはこれまでも幾度となくああして情報を得てきたことが示されているのだ。
ちなみに、禁酒法は当時の家庭の無駄な出費を減らしたり、宗教上の理由からそもそも飲酒を避けるなどの理由に加え、その制定過程には第一次大戦でのドイツとの敵対関係から、ビール等の酒類がドイツを連想させるといった事情もあったと言われている。そしてこれも肝心なことだが、禁酒法はあくまで売り手への法であり、飲酒行為そのものが違法だったわけではない。
なので、酒類はあくまで“手に入りにくい”だけで飲むことが禁止されていたわけではなかったので、ああして賄賂として渡されることにも抵抗は生まれ難かったのである。
同じく、ロビーがアディソンの妻を調査する際に「白人専用」と書かれたホテルに入れなかったことも、2020年代の現在によく逃げずに映像として見せたものだと感心する。
この時代には《ジム・クロウ法》と呼ばれる“黒人隔離政策”が存在しており、黒人の一般公共施設の利用が禁止、制限されていた。
客としての利用は禁止されているが、ホテルで働く従業員は黒人であり、そのボーイに黒人であるロビーが金を渡して裏口から入り込む、という演出は、まさに人種差別が公然と法によって認められていた時代の再現であり、時代背景を理解していないと、このシーンの意味は伝わり難いだろう。
従業員としては安値で使うが、同じ利用者としての“存在”は認めない……
ロビーに関しても、ザ・スパイダーの引退後、特ダネ記事を書けなくなったという理由だけで会社をクビになり、復職のためにはまた大きなネタがなければならないといった描写や、冷蔵庫に満足な食料がなく、ケチャップをパンにかけて食べるような生活環境でありながら、服やネクタイ、カフスなどの持ち物だけはいくつも持っている姿にも、当時の黒人が白人社会で生きていくことへの苦悩が滲む。
今作ではこういった、歴史の知識がある前提の演出が多く取られ、そんな部分も硬派で、ある程度の年齢層に向けた作品になっている。
アディソンの妻が訪ねてきたロビーに言う
「黒人の男が白人の女を襲ってる(と叫ぶ)」
という脅しも、そうした言い掛かりで簡単に黒人が捕まったり、私刑に遭うことが当たり前だった時代を踏まえた上での、白人至上主義と、その白人であることの優越感から来る台詞だ。
この台詞回しだけでも、アディソンの妻の性格や背景が透けて見える演出なのだろう。
(それを考えるとその後ロビーと同じ煙草をふかすシーンは多少違和感があるのだが)
また、前回映像面では、モノクロよりもカラー版の方がむしろ不自然さがなく観られると書いたが、第2話では序盤、シルバーメインと部下のウィンストンが会話するホテルのバルコニーで、そのホテルから見える背景が明らかに少し“浮いて”いるシーンがある。
現在の合成技術であればバックに合成する景色にも動画素材を使い、雲や空気の流れを意識して画を作るものだが、ここでは敢えてモノクロ時代の撮影法に準え、動きのない背景を用意して撮っているのかも知れない。
勿論前回述べたような弱点はそのまま残ってはいるのでシーンによるのだが、こうしたひと工夫があると、モノクロ映像にしたときに“あの頃の空気感”が演出できて非常に良い。
老いたヒーローのキレのないアクションの実直さ
今作はきちんとMarvel作品……スパイダーマンに連なるシリーズであることも視聴者に忘れさせない。その上で、敢えてキレをなくした生身のアクションの鈍さで、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアの時代の『007』シリーズのような、古き良きスパイアクション的な匂いも楽しませてくれる。
現在のスーパーヒーロー映画/ドラマは、VFXや撮影技法の進化で、アクションシーンの派手さは日々増している。
同じスパイダーマンを冠したシリーズでも、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』シリーズ(2002〜2007)ではスーツ姿のスパイダーマンのシークエンスをCGで表現しており、その分そのアクション、所謂《ウェブ・スイング》なども人間離れしたスピードとキレを見せてくれる。
それと比べ、今作のベンのアクションは非常に鈍重だ。勿論CGを使ったアクションもあるのだろうが、スウィングで飛びながら現れたと思えばよたよたと車の上で転びかけ、敵に放つウェブは外したりもする。
見せ場である第2話ラストの戦闘もそんな有様なので、序盤中盤は尚酷い。
何しろ自宅に忍び込んだシルバーメインの部下に放とうとしたウェブは不発に終わり、そのまま妙な格好を「太極拳だ」と言い訳する始末。挙句には叩きのめされてそのまま拉致されてしまう。
何とか車から飛び出して逃げたは良いが、車から降りる姿も逃げ出したと言うより“転げ落ちた”に近く、その後追っ手から逃れるために鉄橋の下に張り付いている姿も、特殊能力を使って何故こんなにも情けなく映るのかというほど、“格好悪い”姿だ。
ニコラス・ケイジにしか演じられない唯一無二のザ・スパイダー
しかし、この老いたザ・スパイダーの姿こそが今作が唯一無二のスパイダーマンであることの現れだ。
演じるニコラス・ケイジ自身のキャリアとも重なるような、栄光と凋落……そしてそこからの復活を描いていく物語は、そのスパイダーマンにしてはキレのないアクションさえも演出に変えてしまう。
ラストのシルバーメインの部下たちとの戦闘の後、事務所に戻ってきたベンはフラフラと椅子に座り込み、大きく息を吐いてデスクに隠した酒を飲む。
この情けない姿には、つい先ほどまでジャネットを脅されたことに憤慨し、シルバーメインに「(ジャネットに手を出せば)お前を殺す」とまで言い放った姿の面影がない。
それはまるで、2010年代にプライベートな事情で多額の借金を負い、“どんな役でも受ける俳優”という不名誉な評価を負わされ興行も批評も散々な作品に出演し続けたケイジの姿にも重なる。
そんなケイジ演じるベンが、他ならぬジャネットのために封印したスパイダースーツを着込み、恐れていたはずのシルバーメインに向かっていくのが良いのだ。
ケイジ自身がアメコミの大ファンであり、自身の息子にはスーパーマンの本名である《カル=エル》の名をつけ、所有していたアメコミのコレクションはオークション値で160万$がついたほどであることも考えると、今作の役柄がケイジにとっても一つの復活の象徴であると見ても考えすぎではないだろう。
更にはそんな華麗なる復活を遂げたザ・スパイダーとシルバーメインの邂逅が、結果として内通者のタレコミによるシルバーメイン逮捕の機会を逃してしまうと言うこの第2話のラストの展開もまた、一筋縄ではいかない皮肉に満ちていて面白い。
まだドラマは第2話……ヒーローの完全復活にはほど遠いのだ。
細やかで丁寧な物語描写と第2話での僅かな不満点
今回から物語も本格的に動き出すが、やはり今作は登場人物や小道具の描写・演出の細やかさが非常に丁寧だ。
ベンの第六感……スパイダーマンシリーズで言うところの《スパイダー・センス》が働く際の片頭痛の描写や、その直後に脱いだ帽子が濡れている=汗をかいているという表現、
ロビーがアディソンとロニーの住む家に調査に向かった際、ストーブに触れその温度で“そこに人がいた形跡を探す”という探偵らしい仕草、
同じシークエンスでは家具の一部に焼けた手で掴んだような痕があり、アディソンら能力者が自身の能力をコントロールし切れていないということを、台詞ではなく画で示す。
現代の作品は説明台詞が多いとよく言われるが、今作のように丁寧な描写を積み重ねると、必ずしも説明的な台詞を入れずとも物語の内容は充分に伝わるものだ。
やはり、そうした点でも、配信限定作品というものは脚本・演出の自由度が高いのかもしれない。同じくSonyのスパイダーマンシリーズ……SSU第5作『ヴェノム:ザ・ラストダンス』冒頭でヌルが「私の名前はヌル……」と誰に向けているのかわからない自己紹介を始めた時とは、かなり脚本の書き方が異なって感じるのは、脚本家の力量の問題とばかりは言えないような気もする。
シルバーメインに珈琲を渡すホテルマンの手が震えていたり、車に同乗する部下二人が引き攣った薄ら笑いで無言の空間を耐えようとしていたりと、シルバーメインという存在が周囲をどのように支配しているのかも少しずつ見せていく。
特に、キャットに服を買い与える際の、部下であるウィンストンすら「古臭い」と顔を顰めるドレスを、キャットに有無を言わせずに着せるその仕草には、圧倒的な力による支配と抑圧されたキャットの関係性が見え隠れしている。
そして、そんなシルバーメインに唯一物が言えるウィンストンの有能さもまた際立つのである。
……だからこそ、今回第2話では多少の不満を感じた部分がある。
まずは序盤でフリントの家に忍び込んだベンがウィンストンと鉢合わせし、クローゼットに隠れるシークエンス。
帽子を回収し、クローゼットをウェブで閉ざしてなんとか事なきを得るが……さすがにウィンストン、それを見過ごすのは街一番のギャングの部下としては脇が甘すぎるだろう。
特に人探しのために家に来ている身で、明らかに怪しい、人が隠れられる場所を開けずに帰るのは即粛清でもおかしくない失態だ。
ベンはベンで、その帽子を危険を冒してまで回収する意味はあったか?確かにスパイダーセンスの汗で濡れてはいたがクローゼットにいることがバレるよりは置いておいた方が安全だろう。
中盤でシルバーメインの部下に脅されたことでジャネットが事務所を去ろうとするシーンも、これも前回ウィンストンに銃を向けたジャネットの胆力を考えるとやや違和感を覚えた。
この件があったことでベンがザ・スパイダーに戻るキッカケとなる重要なシーンではあるが、ここからの6話分も合わせても、ジャネットのキャラクター的にどうしてもこのシーンでの弱気な対応だけは浮いて見える。
普段は強くとも本当に命の危険があれば人は弱くなって当然とは思うのだが……ここはやや“展開のための”脚本に感じてしまったのは否めない。
次回へ向けて……
とは言え、やはり今作は非常に重厚で楽しめるドラマであり、今回から本格的に登場したキャットとベンの、互いに警戒を解かずに軽妙に応酬される台詞のやりとりは洒落が効いているし、時代考証や細やかな描写も実に良い。
シルバーメインにザ・スパイダーの復活は知れ渡り、フリント達能力者とベンが第一次大戦で同じ戦場にいたことや、能力の萌芽が同じ時期であったことなど、次回へと続く伏線もしっかりと張られている。
序盤で蜘蛛を潰したキャットの姿には、この後の物語への不穏な予感も感じさせられて期待が昂まり……次話ではいよいよ、探偵としてのベンとシルバーメインが接触するようだ。
ちなみに、ベンが壁を破壊してスーツを回収した、ベンが元々住んでいた部屋の現住人である若い夫婦は、今後至る所に登場するコメディリリーフとして非常に良い味を出している。
シリアスでハードボイルドな作品だが、こうした絶妙な笑いを用意していてくれるので、全体が観やすくもなっているのは良いところだろう。
第3話へ続く

1930年代のNYへ向かいたい人は観る・購入する
🕷️ スパイダー・ノワール考察レビュー

コメント