Prime Videoドラマ『スパイダー・ノワール』(2026)第3話「裏切り者」ネタバレ考察レビュー

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――忘れるな 人はウソをつく。金だけが真実を語る

by シルバーメイン(演:ブレンダン・グリーソン)

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作品データ

原題:Spider-Noir S1.Episode03:Double Cross

監督:ンジンガ・スチュワート

脚本:ミーガン・リャオ

スティーヴ・ライトフット

原作:Marvelコミック『スパイダーマン・ノワール』

音楽:クリス・バワーズ

マイケル・ディーン・パーソンズ

主題歌:カービー

「Saving Grace」

製作:Sony Pictures Television

配信:Prime Video

出演者:

ベン・ライリー/ザ・スパイダー:ニコラス・ケイジ

ジャネット・ルイス:カレン・ロドリゲス

ロビー・ロバートソン:ラモーン・モリス

フランキー:キャリー・クリストファー

フィン・バーン/シルバーメイン:ブレンダン・グリーソン

キャット・ハーディ:リー・ジュン・リ

フリント・マルコ:ジャック・ヒューストン

ルビー・J・ウィリアムズ:アマンダ・シュル

ウィンストン:ルーカス・ハース

パッジ:ジョー・マシンギル

ペリー:スコット・マッカーサー

カーメディ:ブライアン・ハウ

アディソンの妻ベラ:ウィットニー・ライス

本レビューは第03話の完全ネタバレレビューとなります

筆者は配信全8話視聴済みですが、出来る限り03話時点のネタバレで語ります。

Sony製作『スパイダーマン』シリーズ

および原作コミック等についても言及有。

総文字数:4718文字

読み終わるまでの時間:約12分

目次

第3話短評

第3話はこれまでのエピソードの中で最もフィルム・ノワール的なイメージが強い回だ。

これまで通りバランスよくザ・スパイダーとしてのアクションシーンも用意されてはいるのだが、今回はあくまでその用途は探偵としての捜査と罠を仕掛けるためのものであり、ヒーローとしてよりも探偵:ベン・ライリーの物語が観られる。

ベンとシルバーメイン、ウィンストンなどギャングとのやり取りも含め、ヒリヒリとした駆け引きの緊張感が堪らない。

人種隔離政策とムーズ=アルゴンヌ,大恐慌とフーバーヴィル

今回も時代背景の描き方は細かく、やはり1930年代の人種差別への目線は鋭い。こうした描写を敢えて劇的に表現せず、“そこにあるもの”として、歴史上の過ちをそのままに描き出すような今作の作劇は誠実で、個人的には非常に好みだ。

前回、フリントら能力者たちが《ムーズ=アルゴンヌ》の戦場にいたことと、そこでの戦闘にベンも加わっていたことが明かされた。

このムーズ=アルゴンヌは第一次大戦におけるアメリカ最大の軍事戦闘であり、ドイツとの交戦で多くの死傷者も出している。現在では舞台となった地に遺る当時の塹壕跡は観光地にもなり、記念館が建てられるほどに、アメリカはじめとする連合国側にとって大いなる勝利の証……歴史上の事実だ。

この戦闘には120万の米兵が参加しているが、その軍は人種ごとに分けられていた、ということがベンの口から語られる。戦争に参加する軍隊……生死を共にする極限の場ですら、いやそんな場だからこそ、なのか……。そこには前話で語ったジム・クロウ法の影響が当たり前にあった時代なのだ。

中盤でフリントとロニーが警官隊と戦闘になる違法居住区……当時《フーバーヴィル》と呼ばれた場についても、その存在と警察による撤去活動を、それそのものについて描くよりも、新聞の記事、流れていくものとして描写する。

これは世界恐慌の影響で職を失った人々が掘立て小屋を建てて暮らしていた居住区を指す言葉であり、大恐慌をもたらしたとされる当時の大統領ハーバート・フーヴァーにちなんでそう呼称されていた。

この居住区にいる人々が、警官隊によって強制退去させられる様子がまさにこの時代の社会の空気を語っており、取材で訪れたロビーもまた、新聞社での職を失った状態であるということもまた皮肉だ。

ロビーはこの時のフリントたちの写真を記事にすることでデイリー・ビューグルに戻ろうとしたが、第2話での生活環境を見る限り、一歩間違えば、ロビーもまたこの居住区に住んでいた可能性すらある。

また、恐らく今後そんなところからも、能力者の一人であるロニーとロビーの間に繋がりが生まれ、関係が構築されていくのであろう。

原作『スパイダーマン』の世界におけるロニーはトゥームストーンというヴィランであり、ロビーとは幼馴染であるという設定がある。今作では、その原作の設定を形を変えて表現してくれるのではないだろうか。

戦後の帰還兵や恐慌に振り回される人々のリアル

戦争の跡地が観光地になったりと、アメリカという国の戦争の捉え方についての是非はここでは問わないが、問題はそうした戦争に関わった“英雄”とも言うべき帰還兵たちですら、家を失い違法居住区で暮らしていたという歴史上の事実だ。

今回、第1話でベンに調査を依頼した“キャットの夫”カーメディが実際には市長のスキャンダルを狙っていたということが明かされる。

これについては第1話の段階で既にキャットに夫がいるという展開はほぼ潰されており、残された謎としてはカーメディの正体だけだったわけだが、彼もまた戦争と大恐慌に人生を奪われた時代の被害者であった。

カーメディは市長やキャットに関係した人物ではなく、あくまで市長のスキャンダルを狙い、それによって恐喝で金を得ようとしていたに過ぎない。

ただ、そこで何故自身で写真を撮らず、ベンに探偵を依頼したのか……彼は義足であり、市長のいるビルの高層に登るのが困難だったのだ。これも恐らく、第一次大戦での怪我の後遺症で、この時代にはこうして手足を負傷し、義肢を装着する帰還兵が多くおり、その復員後の仕事には誰もが苦労していたのだ。

アディソンの妻であるベラが違法居住区に住みながら、アディソンが自身の能力によって違法に稼いだ金をホテルで浪費する姿も、そう考えると別の見え方になる。

詳しくは語られないので推察するしかないのだが、アディソンとベラは、戦前……もしくは恐慌が起こる前まではそれなりに裕福な暮らしをしていたのではないだろうか。

ベラはその生活が忘れられず、アディソンもその負い目があるために妻に何も言えなかったのかも知れないし、そんな妻に金を渡すためにも、シルバーメインの暗殺という汚れ仕事も請け負う必要があったのかも知れない。

今作の物語は、歴史的背景を特別に説明せず、その時代の潮流に巻き込まれた主要登場人物以外のキャラクターの生活を想像させる隙間を敢えて残している。

そんなところもまたモノクロ映画、フィルム・ノワール的な面影を感じさせ、非常に洒落た作りだ。

ベラがベンに要求した1000$にしても、既にアディソンの死を知った彼女もまた、カーメディと同じようにあのどうしようもない生活から逃れようと必死だったのではないだろうか。

こうした大恐慌下における帰還兵の処遇や、人種隔離政策による人種差別の問題はそれだけでドラマ/映画一本分のテーマになり得るが、それをあくまで物語の背景としながら、手抜きなく描写しているのは今作の強みだ。

歴史上の事実として、それは間違いなくそこにあった。それをきちんと描写するのは、100年近く経った現在だからこそ必要なことだろう。

名探偵:ベン・ライリー回

第3話は探偵:ベン・ライリーの面目躍如回でもあるが、これは前回ベンがザ・スパイダーとして復帰したことが理由でもあるだろう。

ジャネットが言う通り、ベンはルビーを失ってからの5年間、ザ・スパイダーであることを封印し、探偵稼業も無気力に続けていたのだろう。

第1話でわざわざ階段で市長とキャットの密会を探りに行ったように、スパイダーの能力を使えばいくらでも調査に役立つような場面でも、その力を使うことを拒んできたのだと思う。

ジャネットはそんな没落したベンをそれでも支えながら5年間を過ごしてきた。前回、ジャネットがシルバーメインの部下に脅された程度で事務所を辞めるのは違和感があると書いたが、もしかしたらあれはそんな状況下でも弱腰なベンの姿に、とうとうジャネットが根負けしてしまった場面だったのかも知れない。

今回、ジャネットはあっさりと事務所に戻ってきているが、ベンが探偵としての観察眼を発揮し、シルバーメインが部下たちの金に印をつけて管理をしているのを見破った際に、その復活を確信できたのではないだろうか。

直前のシーンでシルバーメインが部下を伴い事務所に現れたシークエンスではすぐに抽斗の銃に手を伸ばす胆力も見せているので、やはり前回の描写に覚えた違和感は間違いではなかった気がする。

フランキーもまたベンの言う通りに探偵映画を観ながら一生懸命にベンの動作を真似て監視の目を誤魔化したり、ベンを尾行するウィンストンの部下からスリを働いたりとサポート役として大活躍している。

こうしたサポート役のレギュラーキャラクターの魅力もまた探偵ドラマらしい楽しさであり、ベンの指示を聞きながら部屋を物色するフランキーとのやり取り含め、暗い物語の中でチーム・ベン・ライリーの安心感は嬉しい。

探偵としての本分を取り戻したベンは、今回偽装身分証を駆使し、前回の密輸のタレコミ現場にいた警官隊をうまく会話で誘導しながら内通者に迫ったり、ベラとの1000$交渉は探偵らしい知的さに満ちている。

ベラに渡す金を盗むためにスパイダーの能力を使うところも含め、様々な顔を使い分けるシークエンスには『スパイ大作戦』(1966〜1973)などの雰囲気も感じられて楽しい。

また、こうしたベンの行動自体がラストの展開への伏線にもなっていて、大オチでは軽いどんでん返しが用意されていることも、今回がこれまでのエピソードとは一味違う点だろう。

金によって繋がり,金によって壊れるギャングの繋がり

シルバーメインの台詞に象徴されるように、今回は“金”が主軸となったエピソードであり、金だけを信用したが故に騙されるシルバーメイン、そのために殺されるウィンストンと、金によって関係性を築いてきたギャングへのカウンターのような作りになっているのが面白い。

今回のエピソードにフーバーヴィルの撤去のシークエンスがあるのは、そんなギャングとの対比の意味もあるのだろう。

シルバーメインは信用できるものは「金だけだ」と語り、部下たちに渡す金には、一人一人わかるようにマークをつけている。

この強迫的で粘着質な執着こそがシルバーメインの本質であり、部下一人一人に渡した金がどこで使われ、どこにあるのか。それは、“自分の望んだ場面で使われているのか”。そんなところまで支配しなければ気が済まない男の妄執すら感じる場面だ。

キャットの言う、

「理性ではなく力で地位を得た」

「1人を得るために50人を殺す男」という姿がよく現れており、その上でベンが自分の部屋に忍び込んだ際の狼狽ぶりには、自分が常に“狙われる立場”であることへの恐怖心も滲んでいる。

この、大物になりすぎないどこか弱さの滲む男の演技に、シルバーメインを演じたブレンダン・グリーソンの役作りがしっかり表れている。

内通者の存在に弱気になり、

「俺は時代遅れか?」とベンに問う姿には、ベンと同じく力を持った者の老いた哀愁が見え隠れしており、敵対する関係でありながら、

「金も権力も手に入らないご時世に

城に住むのは何かを築き上げた証拠だ」

という言葉を投げかけるベンは、どこかそんなシルバーメインへの同情と共感を感じてもいたのかも知れない。

結果としてその裏をかいたベンによりウィンストンがハメられ、シルバーメインは恐らく最も優秀だった部下を失うことになったが、このウィンストンへの有無を言わせぬ粛清は、シルバーメインのギャングとしての冷酷さをしっかりと描写していた。

今回は第1話での市長との密会や、前話でのタレコミがキャットの企みであったことも明かされ、キャット・フリント・アディソンの関係も徐々に明らかになっていく。

次回へ向けて……

キャットとフリントがシルバーメインの手を逃れようとしたことと、フリントが能力と引換に死を覚悟していることも語られ、今作においてザ・スパイダーやヴィランたちの能力がどうやら彼らの命を削るものであることも匂わされている。

現状、ベン自身は少なくとも5年前にはスパイダーとしての能力を持ち、現在でも肉体的には健康そうに見えるが、フリントたちとベンの相違も今後大きなテーマとなってきそうだ。

次回からはいよいよキャットとベンの関係も動き出す。

ここまではややキャット周りの物語が薄かったので、原作『スパイダーマン・ノワール』ではヒロインでもあるキャットの活躍にも期待したいところだ。

フィルム・ノワールというジャンルには、ファム・ファタール的存在が必要不可欠なのだから。

そして、ウィンストンの粛清と最後の銃弾に倒れたのは一体誰なのか……さすがに主要キャラクターがここで消えることはないだろうとすぐ予想はついてしまうが、仮にこれが一挙配信でなく一週空けての連続ドラマなら良い引きの場面になっていただろう。

今作は全話一挙配信となっているが、脚本や演出の作りとしては完全に連続ドラマの形式である。勿論サブスク主体の現在ではドラマも全話放送後一気に観る層が増えてきているとは思うが、視聴者の話題を長く保たせる意味でも、一挙配信ではなく1話ずつの配信の方が良かったのではないかという気がしてしまう。

第4話へ続く

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