Prime Videoドラマ『スパイダー・ノワール』(2026)第6話「切り裂かれて」ネタバレ考察レビュー

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――失う未来が分かってて 現実を変え 彼らを救う力がその手にあったら?

by アリシア・フェイバー(演:エイミー・アキノ)

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作品データ

原題:Spider-Noir S1.Episode06:Nightmare on a Gurney

監督:アレシア・ジョーンズ

脚本:ジャック・ヘンダーソン

原作:Marvelコミック『スパイダーマン・ノワール』

音楽:クリス・バワーズ

マイケル・ディーン・パーソンズ

主題歌:カービー

「Saving Grace」

製作:Sony Pictures Television

配信:Prime Video

出演者:

ベン・ライリー/ザ・スパイダー:ニコラス・ケイジ

ジャネット・ルイス:カレン・ロドリゲス

ロビー・ロバートソン:ラモーン・モリス

フランキー:キャリー・クリストファー

フィン・バーン/シルバーメイン:ブレンダン・グリーソン

キャット・ハーディ:リー・ジュン・リ

フリント・マルコ:ジャック・ヒューストン

ルビー・J・ウィリアムズ:アマンダ・シュル

Dr.アリシア・フェイバー:エイミー・アキノ

オグデン:アンドリュー・ロビンソン

ヤング・オグデン:カイ・カスター

ジェームズ“ジミー”アディソン:ジャック・マイクセル

ウィンストン:ルーカス・ハース

パトリック・ドニゴール:キャメロン・ブリットン

本レビューは第06話の完全ネタバレレビューとなります

筆者は配信全8話視聴済みですが、出来る限り06話時点のネタバレで語ります。

Sony製作『スパイダーマン』シリーズ

および原作コミック等についても言及有。

総文字数:4780文字

読み終わるまでの時間:約12分

目次

第6話短評

今回は物語の大きな転換点で、ドラマ全体でも最も異色な回である。レギュラーメンバーであるロビーやジャネットは登場せず、ドクター・フェイバーの研究所という閉ざされた空間と、少ない登場人物で進行していく。

連続ドラマとしてはこうした回があることで画変わりもあり、飽きずにラストまで観ることが出来る。ベンの悪夢やラストの展開含め、前話に引き続きホラー色もある面白い回だ。

今回中盤でベンが見る悪夢のシークエンスは、まさにベンの抱えてきた恐怖心とトラウマがそのまま映像化されたものだ。実際の蜘蛛サイズの視点から見る景色は、ベンがザ・スパイダーの能力を手に入れてから、日々感じ続けていた不安を表しているのだろう。

ザ・スパイダーはベンの“呪い”だった

ベンは、スパイダーの力を手に入れた際、蜘蛛の習性や癖に支配され、「人間性を取り戻すのに時間がかかった」と語った。今回も研究所で検査実験を受けたことで、前回と同じく手足を蜘蛛のように曲げ、うまく歩けなくなっている姿が描写される。

このニコラス・ケイジの演技はその動作も合わせて少し笑えてしまうが、ベン本人の身になればその恐怖は計り知れない。

自身の行動を、別の動物の本能が支配する恐怖……自分の人間性が失われていくような感覚を、ベンは長い間感じ続けてきた。

第一次世界大戦の戦闘は1918年11月11日に休戦となり、1919年6月28日に調印された《ヴェルサイユ条約》で終戦とされており、今作の舞台は1930年代。詳しい日付はわからないが、禁酒法がアメリカ合衆国で正式に撤廃されたのが1933年12月5日なので、物語現在をそれ以前としても、少なくとも10年以上ベンは蜘蛛の本能をその身に宿していたことになる。

悪夢の根源である捕虜収容所……その奥まった部屋で見た醜悪な蜘蛛の怪物。そんなものに自分がいつか変貌してしまう可能性に怯えながら人生を過ごすのは、どれほど苦痛だっただろう。

だからこそベンは「スパイダーはヒーローじゃない」と言い切る。ザ・スパイダーであることは、そんな恐怖から目を背けるためでもあったのではないだろうか。

ルビーとの日々は、そんな恐怖をほんの僅かでも忘れられる時間だった。

故にそのルビーを喪ったとき、ベンの人生から、ザ・スパイダーの存在は“あってはならない悪夢そのもの”に変わり、そのすべてを封印せざるを得なかった。

抱きしめたルビーの幻影がザ・スパイダーの姿に変化するのは、そんな絶望の表れだ。

私立探偵の生活苦……帰還兵のPTSD(シェル・ショック)のメタファーとしての悪夢

「俺を追い出したら何もできないだろ?」

前話でキャットは、「(本当に)ただのベン・ライリーに戻りたい?」と問うたが、その答えを誰より知っていたのもベン自身ではないか。

1930年代に私立探偵を営むというのは、決してラクなことではなかったはずだ。当時のアメリカにはピンカートン探偵社やウィリアム・J・バーンズ探偵社という大手探偵社があり、そこに勤める者には労働運動の監視やストライキの阻止など、現在の警備会社に近い仕事が与えられ、社会的な職業として認められてもいた。

一方、それと比して私立探偵のイメージは、現在とそう変わるものではない。安い依頼料で、浮気調査や飼い猫の捜索をする……第1話で、ドニゴールやベンの財布事情が芳しくないことも示されている。

ベンもまた、帰還兵でありながら、国からの援助を打ち切られた存在ということだ。

これは、中盤の回想で現れる、大戦中の上官とのやりとりにも描写されている。ドイツ軍のおかしな実験に巻き込まれた生き残り……その身体を調べることで、次の戦争に役立つ何かが見つけられるかも知れない。

これから身体を切り裂き、実験材料とする相手に向け「チョコでもソーダでも用意してやれ」と上官は言い放つ。彼らがテントに入ってくる際、ベンには片頭痛(スパイダー・センス)が発現し、明らかに危険の兆候を嗅ぎ取っている。彼らは捕虜を救い、国の為に戦ったベンを、戦時下ですらモルモット程度にしか見ていない。

ベンはフェイバーに「一味か?」と問うた。

自身が命を捧げたはずの国家に対し、ネガティブな言葉で“一味”と表現しているのが、ベンの先の大戦への想いが読み取れる。

ベンの悪夢は、SFヒーロー的な物語やファンタジーに隠されているが、戦後の帰還兵のPTSD……当時の言葉で言うなら“シェル・ショック”について描いたものとも言える。前回、今作におけるザ・スパイダーやヴィランは“戦争の負の遺産”と書いたが、まさしくベンにとっての蜘蛛は、嫌でも戦争を思い出させるもので、恐怖と、後悔の象徴だ。

フェイバーとベンの共通項~エゴと逃避〜

ベンの問いに対し、「軍の科学者なんかと一緒にしないで」と応えたフェイバーもまた、戦争の犠牲者であり、ベンとの類似性を感じさせるキャラクターとして描かれる。

前回、自身も戦場にいたことが示唆されたフェイバーの秘書である老人・オグデン。今回冒頭、実際には彼はまだ30代であり、フリントたちと同じく突然変異により死を待つばかりの能力者であることが明かされる。

フェイバーは自身の息子である彼を救うために実験を繰り返していた。

フェイバーは、ベンやフリントたちが言う通り、確かにどこかで道を踏み外し、狂気に侵されていたのだろう。

ラストに現れる、多くの能力者たちの遺体……フリントたちやベンと同じように研究所に連れて来られ、その身体を切り裂かれた彼らは、結局救われることはなく、ガラスケースの中に眠ることになった。

写真に写っていた、ベンが解放した捕虜たちは一個小隊程度の人数がおり、そのほとんどと彼女は接触していたに違いない。その中には、詳しい描写はないため断定はできないが、フェイバーの研究の結果、死が“早められた”者もいたのかも知れない。

これは同じMarvel作品の映画『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)で、実験・研究の果てに殺されたミュータントたちを彷彿とさせる映像で、前回のメガワットへの拷問と合わせ、“自分たちと違う者”に対し人がどこまでも残酷になれることを表すシーンでもある。

フェイバーは実験に成功した後はオグデンと共に逃げようとしており、解毒剤が成功したのちは、口封じのためにベンも殺すつもりであったことが語られる。

それはつまり、ベンの、フリントたちの推理通り、彼らは単なる実験の道具であり、初めから治療を行う気などなかったということも示しているのだ。

フェイバーの目的は、ただ息子を助けること。そしてその息子と共に、新しい人生を生きることだった。

しかしそれは、実は今回ベンがやろうとしたこととも重なってしまう。

オグデンが咎めた通り、ベンは自身の身体に能力者たちを救う手がかりがあることを知りながら、すべてを捨てて逃げようとしていた。

ヒーローとしての責任も、人を救える可能性も捨て、ただ自身の都合だけで愛する者と、自身の責任から逃げようとした。

愛する者の、愛する者を救うチャンスを潰した。それは勿論、戦時中にいくら調べても自分の能力が消えなかったことを知っているからでもあるだろう。

しかし同時にそれはベンの100%のエゴであり、ヒーローとは程遠い行動だ。それは、科学の道を踏み外したフェイバーと変わらないのではないか。

ベンの身体から治療法を見つけたとき、そしてオグデンが実際に若返ったのを見た時のフェイバーの表情は、狂った科学者ではなく、純粋に息子を想う母親そのものだった。

安全性の確認が取れているかもわからない薬を有無を言わせずオグデンに注射している姿は褒められたものではないが、それでも彼女は間違いなく、愛情深い母親ではあり、そのエゴに狂った存在だったのだ。

「おかえり。人生を取り戻した」

オグデンとベンの関係も、今回このドラマに静かな余韻を添える。

「スパイダーはヒーローじゃない。スリルを求めた」

そう言い放ったベンに、それでもオグデンはこう応えた。

「今まではそうだったとしても-これからヒーローになれる」

オグデンの台詞は、この時点では解毒剤を完成させることへの言葉だったのだろう。しかし、この言葉は、今作のベンの在り方そのものに関わってくる。

終盤、研究所を出る前、ベンはオグデンの肩を叩く。

「おかえり。人生を取り戻した。これからどうする?」

あれほどまでに自身のヒーローとしての活動も、自身の身体が能力者たちの治療薬に使われることも拒否していたベンが、いざ回復したオグデンを見ると、心から嬉しそうに笑う。

(この若いオグデンを演じたカイ・カスターとオグデン役のアンドリュー・ロビンソンが絶妙に容姿が似ているのも細かいが良いキャスティングだ)

ここまでのドラマでも、ベンには常にそこにいる誰かを見過ごせない優しさがあり、それは本人がどんなに否定しても、ヒーローとしての在り方そのものだった。

だからオグデンは、ベンを殺せない。命の恩人であり、善人である彼を殺せない。

序盤でベンを拉致する際も、鎮静剤を打ちながら「別のやり方がよかった」とも語っており、フリントらも含め、能力者たちは基本的に善性を持った人間ばかりだ。

だからこそ今作は人や、時代の悪意が浮き彫りになり、ヴィランであるシルバーメインやメガワットの存在も強調される。

オグデンには、人生をやり直して欲しかった。戦争を経験し、捕虜から解放され、人の何倍も早く老いる身体からも解放され、これから本当の彼は、どんな人生を送れただろうか……。

ほんの一時母との時間を過ごし、母と共に死ねたのは彼にとって幸福だったのだろうか。

オグデンがベンをヒーローに立ち返らせた

オグデンの存在が、ドラマ全体を通してベンの中のヒーロー、ザ・スパイダーを呼び起こすキッカケの一つとなったことは間違いない。たった2話の出演ではあるが、この研究所の事件は、今作において重要な役割を担う。

今回のタイトルは原題では「Nightmare on a Gurney=処置台の上の悪夢」だが、邦題は「切り裂かれて」。どちらもこの第6話を象徴する言葉だが、邦題はダブルミーニングになっているように感じられ、うまいタイトルをつけたものだと思う。

文字通りに身体を切り裂かれ、実験をされたことに加え、キャットに裏切られ、ベンの心もまた切り裂かれていた。悪夢の中で、ベンに関わったことで死んでいった者たちの幻影を見た最後に、第2話冒頭で演出されたキャットが蜘蛛を潰すシーンで夢が終わるのは、その象徴だ。

今回冒頭、キャットと逃げるための支度をするシークエンスで、ベンはジャネットに金を残した上で、ルビーの写真を、家に置いて行こうとする。キャットとの生活を選ぶ為に、ルビーも、ザ・スパイダーも、すべてを捨てることを決めていた。

「望まない俺の一部だ」とオグデンにスーツを押し付け、ただのベン・ライリーとして生きることを選ぼうとした彼が、研究所からわざわざ、そのスーツを持ち帰る。ただ逃げるだけなら、そんなものは捨てて帰っても良かった。

そこにベン・ライリーがいた痕跡さえ消せれば、ザ・スパイダーの存在までも隠す必要はなかったのだ。

それでも、ベンはそのスーツを、解毒剤と共に持ち帰ることを選んだ。

この一件で、ベンはようやくヒーローとして生きるキッカケを手にしたのだ。

次回へ向けて……

今回冒頭のオグデンとの会話の中で、ベン・ライリーの名は戦時中とは別名であり、ベンの本名が他にあることが示唆された。

捜査の際に様々な偽名名刺を持っていたことからも推察できたが、このベンの本名についてはシーズンが続いていけば明かされることになるのかも知れない。

今回結局のところなぜベンだけが変異によっての死を免れたかは説明されておらず、まだまだ謎は残されている。

原作『スパイダーマン』においてのベン・ライリーは主人公:ピーター・パーカーのクローンのキャラクターに名付けられた名前であり、もしかしたらそんなところも関係しているのだろうか。

次回はついに物語も最終盤。ベンの手には、フリントたちを、自身を救える解毒剤がある。ベンがヒーローとして動くか否かの分水嶺が近づいている。

第7話へ続く

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