Prime Videoドラマ『スパイダー・ノワール』(2026)第7話「ヒーローにあらず」ネタバレ考察レビュー

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――この5年と同じお前をこれからも見るのは……ごめんだね

by ロビー・ロバートソン(演:ラモーン・モリス)

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作品データ

原題:Spider-Noir S1.Episode07:Nobody’s Hero

監督:グレッグ・ヤイタネス

脚本:ブルース・マーシャル・ローマンズ

原作:Marvelコミック『スパイダーマン・ノワール』

音楽:クリス・バワーズ

マイケル・ディーン・パーソンズ

主題歌:カービー

「Saving Grace」

製作:Sony Pictures Television

配信:Prime Video

出演者:

ベン・ライリー/ザ・スパイダー:ニコラス・ケイジ

ジャネット・ルイス:カレン・ロドリゲス

ロビー・ロバートソン:ラモーン・モリス

フランキー:キャリー・クリストファー

フィン・バーン/シルバーメイン:ブレンダン・グリーソン

キャット・ハーディ:リー・ジュン・リ

フリント・マルコ:ジャック・ヒューストン

ルビー・J・ウィリアムズ:アマンダ・シュル

アルフレッド・モリス:マイケル・コストロフ

本レビューは第07話の完全ネタバレレビューとなります

筆者は配信全8話視聴済みですが、出来る限り07話時点のネタバレで語ります。

Sony製作『スパイダーマン』シリーズ

および原作コミック等についても言及有。

総文字数:5489文字

読み終わるまでの時間:約14分

目次

第7話短評

第7話は、これまでの『スパイダーマン』シリーズとは一味違う、“責任”に対する今作独自の向き合い方が見られる。

すべてを捨てようとしていたベンが、ザ・スパイダーになるために、ヒーローとしての自分自身を認めるための物語。いよいよ最終回直前、最大の山場であり、ヒーローの孤独と痛みが描かれた。

力がなければ責任は伴わない

今回ベンの言う

「力がなければ責任は伴わない」

という言葉は、『スパイダーマン』というシリーズそのものへのカウンターだ。

スパイダーマンという作品において、凡そどの世界でも「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉は軸となっている。コミック・実写・アニメ問わず、あらゆるアースのピーター・パーカー、及びスパイダーマンの名を持つ者にとってそれは非常に重要な言葉であり、ある時は叔父であるベン、ある時は叔母であるメイ……彼らにとって大切な誰かから貰った、スパイダーマンを定義する言葉と言って良い。

同時にそれはあらゆるスパイダーマンにとって“呪いの言葉”でもあり、彼らはその呪いを受けることで、その真の意味に気づくことになる。

〜スパイダーマンは、大切な者を失わなければならない〜

あらゆるアースのスパイダーマンが集結するアニメ映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)で《カノン・イベント》と定義されたそれは、スパイダーマンがスパイダーマンになるために必要不可欠であるとされる。MCUスパイダーマン『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)は、カノンなくしてスパイダーマンとして活動していたピーターに、カノン・イベントを経験させるための作品とも言えた。

しかし、近年ではそのカノンについて、スパイダーマンというシリーズそのものがカウンターを打ってきているような気がする。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は、主人公であるマイルスがカノン・イベントを防ごうとする物語であり、愛する者を守る為、全アースのスパイダーマンを敵に回すという、スパイダーマンの存在そのものを問い直すかのような作品だ。

(それぞれの作品の感想については様々な意見もあると思うが、筆者の見解はいずれ別にレビューを書きたい)

ベンもまた、多くのスパイダーマンと同じように愛する者を喪った。しかし彼は喪ったことでスパイダーマンになるのではなく、喪うことでザ・スパイダーを捨てている。

「力がなければ責任は伴わない」

大いなる力が、それを持つ者に責任を強いるのなら。その責任が、大切な者を危険に晒すのなら、その“責任そのものを放棄する”。

今作のベンは、そうやってヒーローの力を捨て、街の悪事や、人々の苦しみから目を逸らして5年間を過ごしてきた。

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ヨレヨレのスパイダーとして表現してきた意味

今回も、ベンは序盤から酷い有様だ。

研究所が焼け落ちた後、街に戻ってきたは良いが、家にも事務所にも戻らず、ジャネットやロビーに連絡することもなく、場末の闇酒場で飲んだくれ、うじうじと泣き言ばかり言っている。

酒場の店主が“酔っ払いの戯言”と相手にしていないから良い。しかし、言っていることはまさしく「私がザ・スパイダーの成れの果てでございます」と言わんばかりで、正体を隠すべきヒーローとしてあるまじき行為だ。

これではヒーローが何の為に覆面を被るのかもわからないし、それこそ『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』での、全世界に正体がバレてしまったがために大きな事件を巻き起こしてしまったピーターも報われない。

挙句には、酒場に入ってきてザ・スパイダーを悪様に罵る若者たちを、わざわざ一度店の外に出て、スパイダーの覆面を被った上で店に戻り、全員痛めつけてウェブで縛り上げてしまう。

このアクションがまた、ドラマ全話通しても一際情けない。ただでさえその若者たちにも「老け込んだ」「ヨレヨレだ」「随分と太ってた」とまで罵られた戦いっぷりの上、やけ酒を煽って泥酔した状態だ。

その戦いに美学はなく、そもそも正義の戦いでもなんでもなく、単なる喧嘩でしかない。

第1話から繰り返し、敢えてキレのないアクションを演出してきたのもここで意味が出る。

今作のアクションは、演じたニコラス・ケイジの年齢による力不足ではなく、老いたベンの“みっともなさ”に焦点を当てたものだ。

CG処理された夜の闇をスウィングするシーンすらスピード感やキレが抑えられたそれは、視聴者だけが感じることではなく、劇中の登場人物ですら当たり前に見て感じることだったのだ。

とは言え、何の能力も持たない一般市民を相手に、ザ・スパイダーが負けるはずもない。

それでも随分と苦戦し、間抜けな姿をたっぷり尺を取って見せた後、ハイテンションでウェブを放ち勝利の雄叫びまで上げて見せる。

酒場の店主が同情するように差し出した“勝利の美酒”を、マスクの口元をみっともなく開けて飲みながら、呆れたロビーに連れ出されていく。

それはヒーローではなく、ただ居場所を失い孤独を抱えた中年男の姿だ。

ヒーローの孤独とザ・スパイダー

「スパイダーも普通の人間かも知れないだろ」

「実は悩み、重荷を感じてたら?寂しく疲れ、孤独だったら?」

スパイダーマンはしばしば原作及び関連作にて“親愛なる隣人”と称される。

宇宙の神でも、超人血清を打たれたわけでも、大企業の社長でもない、能力はあれ、あまりにも人間らしい普通の人間。

だからこそ、スパイダーマンは、愛する者たちから託された、大いなる責任との狭間で苦悩する。

「スパイダーがいることを誰一人望んでない」

「命懸けで守ってきたのに少しでも意に沿わないとたちまち憎む」

これはあらゆるヒーロー達が抱える苦悩であり、今作舞台である1930年代という時代は、そんな彼らにとってより生き難い時世だった。

ベンは、ヒーローになりたかったわけではない。むしろ、ずっとその恐怖に怯えてきた。

彼は、戦争で一度英雄(=ヒーロー)になり損ねている。命懸けで戦い、化け物に噛まれて帰還したベンに国が与えたのは、治療とは名ばかりのモルモット扱いの実験と、ろくな職も与えられない名ばかりの自由だった。

それでもベンは、自分を捨てたそんな国のために、その呪われた力を行使してきたのだ。

全てを失って尚、友は傍にいた

今作においてそんなベンを救うのは、やはりロビーであり、ジャネットの存在だ。

黒人であるロビーを取り囲む情勢については、これまで繰り返し描かれてきた。

ロビーはベンがザ・スパイダーであることを、劇中登場人物で唯一知っている。そして、それを知っているが故に、仕事を得ていた。

デイリー・ビューグルの編集長からロビーへの態度、第5話で彼が社に戻ったときの、同僚たちの視線……ザ・スパイダーが姿を消し、ロビーがその記事を書かなくなったとき、それは社にとって、黒人であるロビーをオフィスから追い出す最高の材料だったに違いない。

ロビーは文字通り、ベンによって得たものを一度全て失った。

利用できるうちはロビーを盛り立てたであろう会社は、利用価値がなくなったロビーを黒人として切り捨てた。それはヒーローの孤独を嘆くベンと何ら変わらない境遇だ。

その上で、彼は街にはヒーローが必要だと説く。自分を虐げている世界を、フリントやロニーのように襲うのではなく、ザ・スパイダーに救ってくれと言う。

ロビーは、ヒーローとして再起することが、ベンにとっての再起であることを知っている。

街や、ロニーを救いたい気持ちもあるだろう。事実、この後シルバーメインの部下として暗躍するロニーに、ロビーはまず対話を求めてもいる。

しかしそんな大きなもの以上に、ロビーはベン自身に救われて欲しかったのだと思う。

「知ってた」という優しさ

今回、ジャネットも実は、ベンがザ・スパイダーであることを知っていたことが明かされる。

これはむしろ、劇中描写としても知らない方が不自然なほどに、ジャネットはここまで起こったすべてを受け入れていたので、唐突感もなく納得の展開だ。

ジャネットがベンがザ・スパイダーであることを知った経緯は実に情けなく、非常に笑えるコメディシーンとして演出される。

事務所で今回のように酔っ払い、泥酔状態でスパイダーのスーツを着てジャネットに絡むベンの姿を見て、ジャネットはすべてを悟ったのだろう。当然、本人は何も覚えてはいない。

「知ってた?」

「知ってたことを知ってた?」

ジャネットは恐らく、それをロビーに最初に話している。今回もキャットからベンが行方不明である話を聞き、ジャネットはまず最初にロビーに電話をかけ、繋がらなければデイリー・ビューグルにまですぐに電話を掛け直した。レギュラー三人が築き上げてきた信頼と絆の深さが、そこにはきちんと表現されている。

これまでも二人が、ルビーを喪い沈み続けたベンを支え続けていたことは劇中ずっと描かれていたが、ベンにもようやく、それが腑に落ちたのだろう。

ベンは孤独ではなかったし、これから先も孤独になることはない。少なくとも、彼はザ・スパイダーの秘密を一人で抱えているわけではなく、“ベンにとっての”最高の友人二人が、その秘密を共有してくれていたのだから。二人は、この戦いの後にベンが解毒剤を打とうとすることも、決して否定はしない。

ヒーローであるザ・スパイダーを失うことではなく、ベンという一人の男が再起し、再びはい上がることを望んでいるのだ。

そこには、金という信頼関係でしか繋がれないシルバーメインたちとは、まったく異なる本当の絆がある。同じザ・スパイダーの秘密を共有しても、“自身の救世主”としてそれを求めたキャットとの違いがここに表れているのだ。

キャットがベンを愛せなかった理由

同時にそれは、キャットとフリントの間にあった愛情についても同じことが言える。

今回冒頭、ベンとザ・スパイダーの秘密をフェイバーに告げ、ベンと逃げることが叶わなかったキャットの姿が描かれる。

この時キャットは、裏切ったベンよりもまず、フリントのことを想う。酒を煽り、やけくそにピアノの鍵盤を叩く彼女の頭に浮かぶのはまずフリントのことであり、そのフリントの命を救うために、ベンは身体を切り裂かれたのだ。

キャットが自身の過去をベンに話した、彼女が元々いたクラブの跡地……そこはそもそも、フリントとキャットが出会った場所でもあった。

出会ったときにキャットが着ていた服を覚えており、シルバーメインの支配下で、互いの傷も弱さも抱え込んでいたフリントとキャット……その重ねた時間の重さは、結局のところベンの介入を許さない。

「傷ついたのは俺が棺桶に入る前に君が探偵と逃げたことだ」

ルビーは既にこの世にいなかった。

フリントはまだ生きて、救うことができた。

たったの一点、しかしあまりにも大きな差異がそこにはあった。

「あなたは最悪な私を愛し、よくなるよう励ましてくれた」

それだけ愛したキャットがベンと劇場で話すのを見てしまったからこそ、死を前にしたフリントの最後の希望が潰え、シルバーメインの配下に戻ったのではないだろうか。

ロニーの救いと、ヒーローらしくないアクション

終盤のザ・スパイダーのアクションは、相変わらず決して格好良いものではなく、鈍重でキレも悪く、今回も肝心のところでウェブが出なくなってしまう。

しかし、それでも覚悟を決めたヒーローは、能力者たちを倒すのではなく、救うためにその力を行使する。

しかし、この時点ではまだベンはザ・スパイダーとして完全に目覚めたわけではない。前述の通り、彼はまだ、大いなる責任を放棄しようとしており、ロニーたちに解毒剤を打った後は、自身も……ザ・スパイダーの存在も消そうとしているからだ。

この、シルバーメインに買収された警官隊との戦いもまた、今作の時代性と、民衆の愚かさをよく描いており、警官たちはロビーが隙をついて解毒剤を打ち、能力を失ったロニーに対し、「力を失ったな」と嬉々として攻撃を与えようとする。

その際には、なんとたった今彼らを助け、倒れ込むザ・スパイダーにまで攻撃を加えようとするのだ。

ベンやロニーが絶望した社会の正体……それがここにはハッキリと示されており、だからこそ、ロニーにとって、ロビーの存在は大きかった。

救ってくれたザ・スパイダーのマスクの下には関心を示さず、ロビーの「いい奴だ」の言葉に納得しながら、ロニーは「母とナイアガラの滝を見にいく」と言って街を去っていく。

この際、ロビーが箪笥を漁り、わずかばかりの金を渡そうとするシーン……ロビーのこの優しさが、ロニーをギリギリのところで留めていたのだろう。

ロビーもまた、今作におけるヒーローの一人だ。

ロニーがロビーの家を出るシーンでは、やけに長い引きの画に、外にシルバーメインの部下が控えていて……という展開を想像してしまいヒヤヒヤしたが、最終回直前にそんな展開がなかったのは安心した。

ロニーも、フリントも、シルバーメインの下に着いてから劇中殺人は一度もしていない。彼らはまだやり直せる。今作は、そこに救いがあるのだ。

次回へ向けて……

解毒剤の存在は、シルバーメインにとっても、市長にとっても選挙戦を大きく有利にする材料になる。

警察署長の言う通り、彼らが一度は市長の側について裏切ろうとしたシルバーメインの側についているのは、「普通の人間では歯が立たない部下がいるから」だ。警察組織すら正義でも金のためでもなく、ただ恐怖によって支配を受け入れている。

だからこそ、解毒剤の存在が明らかになった今、両陣営にとって必要なのは

“戦力”であるザ・スパイダーを取り込むことであり

“脅威”になるザ・スパイダーを遠ざけることである。

「ベン・ライリーを呼べ」

この戦局を動かすには、解毒剤とザ・スパイダーについて探れる探偵が必要だ。

いよいよ次回、ベンのヒーローとしての決断が試される。

最終話へ続く

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