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連続ドラマレビュー
前話レビューはコチラ

――(地獄には)落ちてる。君の席も温めとく。
by ベン・ライリー/ザ・スパイダー(演:ニコラス・ケイジ)
→『スパイダー・ノワール』を観る・購入する
作品データ
原題:Spider-Noir S1.Episode08:The Man in the Mask
監督:グレッグ・ヤイタネス
脚本:オレン・ウジエル
原作:Marvelコミック『スパイダーマン・ノワール』
音楽:クリス・バワーズ
マイケル・ディーン・パーソンズ
主題歌:カービー
「Saving Grace」
製作:Sony Pictures Television
配信:Prime Video
出演者:
ベン・ライリー/ザ・スパイダー:ニコラス・ケイジ
ジャネット・ルイス:カレン・ロドリゲス
ロビー・ロバートソン:ラモーン・モリス
フランキー:キャリー・クリストファー
フィン・バーン/シルバーメイン:ブレンダン・グリーソン
キャット・ハーディ:リー・ジュン・リ
フリント・マルコ:ジャック・ヒューストン
ルビー・J・ウィリアムズ:アマンダ・シュル
アルフレッド・モリス:マイケル・コストロフ
※本レビューは最終話までの完全ネタバレレビューとなります。
Sony製作『スパイダーマン』シリーズ
および原作コミック等についても言及有。
総文字数:6241文字
読み終わるまでの時間:約15分
〜筆者より〜
本日で8日間毎日更新、『スパイダー・ノワール』全話感想は終了である。
ここから、2026/06/10(水)より通常更新に戻り、スパイダーマン関連作品《SSU(Sony’s Spider-Man Universe)》のシリーズレビューとなる。
『スパイダー・ノワール』の総括については、そちらが終わり次第掲載したいと思っている。
各話感想と内容が被る部分もあるとは思うが、より詳細に、全話合わせてのレビューとしたい。
まずはSSUのレビューを読み、スパイダーマンの映像化の歴史を辿っていってもらえると嬉しい。
今日までお付き合い、本当に有難うございました。皆様が読んでくれるおかげで、8日間走り抜けられました。SSU〜スパイダーマンまで、引き続き蜘蛛の糸を辿っていきましょう。
最終話短評
いよいよ今作も最終回。
今回はまさにこのドラマが『スパイダーマン』シリーズであったことを思い出させる展開で、スーパーヒーローシリーズらしいアクションや、ザ・スパイダーのヒーローとしての矜持が楽しめ、過去作品のオマージュもふんだんに盛り込まれている。
同時に今作らしい会話劇の面白さやウィットにも満ちていて、第1シーズンの終わりとしてこれ以上ない仕上がりだ。
“ヒーローの再誕”を描いたドラマ
『スパイダー・ノワール』で描きたかったのは“ヒーローの帰還”よりむしろ“ヒーローの再誕”だったのだろう。
今作でのザ・スパイダーの描き方それ自体が、今後Sonyが作っていくスパイダーマンのシリーズ全体にも波及していくような、そんな予感すら感じさせる。
今回はドラマ全体で最もアクションシーンが多く、またそのアクションにようやくスパイダーマンらしいキレと勢いがつく。それは、戦いを終えた後、人々がザ・スパイダーを迎える「おかえりなさい」「ありがとう」のシーンをやるためだったのだと思う。
このシーンのために、ここまで7話をかけて、老残を晒す弱々しいベンの姿、スウィングで転びかけ、ウェブがうまく出せないザ・スパイダーの姿を描いてきたのだろう。
中盤〜終盤のアクションとて、決して他のスパイダーマン作品のような、若々しく精気に満ち溢れたものではない。
しかし、ロビーやジャネットを救うためにすんでのところでウェブの能力が回復する姿や、マスクを破られボロボロになりながらも立ち上がり、メガワットの電流に苦しみながら最後まで膝をつかず敵を投げ飛ばす姿には、明確にヒーローとしての覚悟を決めた姿がある。
傷ついても傷ついても、自分以外の誰かのために立ち上がり、戦うそんなヒーローの姿こそが、“子供達の憧れ”であり、“大人達の救い”だ。
偶像としてのヒーロー……この世界でそう呼ばれているかはハッキリしないが、スパイダーマンを指し示す“親愛なる隣人”としての、そこに在るべきヒーロー。歓声を浴びながら去るザ・スパイダーの背中は、これまでのように弱々しくも、ふらついてもいない。覚悟を決めて堂々としていながら、けれど孤独に満ちている。
だからこそ、今作のザ・スパイダーは最後の瞬間にようやく人々に迎え入れられる。
ベンはここで、今作以前からの彼の物語の中で……そして今作で語られてきたヒーローの孤独と苦悩を受け入れる。受け入れた上で、その先へ進んでいくことを決めたのだ。
地獄に落ちたヒーローとヒロインではないヒロイン
ラストシーンのシルバーメインの葬儀、ベンはキャットとの別れでこんな会話を交わす。
「地獄に堕ちて」
「落ちてる。君の分も温めとく」
これは自分を裏切った愛しい女性に対しての最大の皮肉であり、あまりにも哀しい愛の告白でもある。
キャットの愛も、ベンの愛も、少なからず自分たちを取り囲む環境から逃れるための、“逃避のための愛”ではあっただろう。
しかし少なくとも、第6話で街を離れようとするベンはルビーと写した写真を家に置いていこうとしており、過去を振り切り新しい愛に生きようとはしていたはずだ。
キャットは、今作においてヒロインの立ち位置にはいなかった。物語の構造から言えば間違いなくそうなのだろうが、実際にキャットはベンの物語において、彼がヒーローとして復活する理由にも、ヒーローとして戦う意味にもなっていない。
彼女はあくまで今作全体の一つの事件の関係者という立ち位置だ。
「別の世界ならあなたと逃げた」
という言葉は、『スパイダーマン』の世界観で言うなら、原作コミック『スパイダーマン・ノワール』においてフェリシア・ハーディがスパイダーマンであるピーター・パーカーと交際していたことを指す言葉で、マルチバース的オマージュだろう。
しかし、今作の世界でのこれは、キャットからベンへのおためごかしであり、ベンへの後ろめたさと後悔を表す言葉だ。
彼女が愛していたのは、このドラマ内で一貫してフリントだけだったのだと思う。
初めてベンの部屋を訪れた時も、ラジオから流れるメガワットの事件を聞き、フリントが現れたと思って彼女はすぐに現場へ向かった。
フリントの治療法がわかれば、ドクター・フェイバーにベンを引き渡した。
「愛のためなの」
とキャットは言い、そこにはベンへの愛はない。彼女は一時、その苦しみから解放されたかっただけだろう。
シルバーメインに銃を向けられた時も、彼女は自分がネズミであったと告白し、フリントを愛しベンを傷つけたと話した。
あれはベンへの罪悪感からザ・スパイダーの正体を守ろうとした行動のようにも見えるが、最終的にあの場にはベンもフリントもいたわけで、あくまで自分の身に危険が及ばないことを理解していたようにも見えてしまうのだ。
現在のところ今作のシーズン継続の報は聞こえてこないが、『スパイダー・ノワール』というドラマは今後も、こうした成就しない恋を描くシリーズになっても面白いのではないかと思う。
今回の最後のキャットとの会話もそうだが、皮肉とウィットに満ちた会話は他のスパイダーマン作品にはないものであり、そこには『007』シリーズのような古き良き洒脱な印象もある。《ボンド・ガール》という言葉も現在では“時代遅れ”と言われがちな昨今ではあるが、舞台の時代性もある今作では、シーズンごとに変わるヒロインを描いていくのも、フィルム・ノワール的な物語の演出としては面白いのではないだろうか。
ザ・スパイダーはチームである
そんなキャットの存在があるからこそ、ロビーとジャネットという、レギュラーで真の友人である彼らの存在も際立つことになる。
今回、ロビーはシルバーメインに捕らわれたベンのためにザ・スパイダーのフリをして敵陣に乗り込み、その裏ではジャネットも解毒剤を持って控えていた。彼らは今回明確にチームとして最後の戦いに挑んでおり、ベンは決して一人で戦ったわけではない。
この三人の会話とやり取りは、長年の信頼と関係に裏打ちされた最高のコンビネーションを見せてくれた。
これは、互いに裏切り合い、最後の戦いを結局
“1(メガワット)対1(フリント)対1(シルバーメイン)対3(チーム・ベン・ライリー)”
で戦い、仲間割れまでしたヴィラン側との大きな違いである。
序盤、ロビーの家にベンを迎えにきたフリントたちと対峙した際、ベンとフリントたちが話している間に、ロビーは解毒剤をベンのコートに忍ばせる。
ベンは横目にそれをきちんと見ており、部屋を出る前に「コートを取らせろ」と言う。この緊張感のある演出はまるでスパイもののようで、こういったシーンの作り方が今作の大きな特徴であった。今作が他のスパイダーマンと違う独自性を持っているのはこうしたシーンによるものが大きい。
結果としてこれはメガワットによって妨害されてしまうわけだが、この後も三人のチーム戦がラストバトルの展開へ繋がっていく。
ロビー・スパイダーがキャットの店を訪れるシークエンスでも、ベンがシルバーメインとザ・スパイダーの会話に割って入るのは、要するに「まだ俺の力は戻っていないから無理をせず時間を稼いでくれ」ということで、ロビーもそれを了解した上で出来る限り会話を引き延ばそうとしている。
これもジャネットがシルバーメインの部下に捕まってしまうことで失敗に終わってしまうわけだが、ここでもジャネットが解毒剤を持っていたり、それぞれが自分の役割を理解して動いているのがわかる。
三人は必ずしも作戦を立てていたわけでも、それを立てる時間もなかったはずだ。それでも、互いのために出来ることをきちんとしている。
こうしたレギュラーメンバー三人(+フランキー)の絆が、今作の大きな魅力の一つであり、ベンがザ・スパイダーのフリをするロビーに電話をかけるシークエンスにしても、「その変な話し方は何?」と咎められているが、それがベンがシルバーメインに語った「言ってることの半分もわからない」に繋がっているのもポイントだ。
ザ・スパイダーとして解毒剤を打たれ、倒れ込むロビーの「確かに嫌な仕事だ」と言う笑顔とサムズアップは、短いシーンだが非常に良い。キャットの頬を叩いたジャネット含め、この二人の存在は本当の意味でベンを救うものだったはずだ。
シルバーメインの物語はまだ語り足りていない
一方、最終話は展開が多いため、ヴィラン側の物語はやや駆け足に終わってしまった。特にシルバーメインに関しては、もう少し掘り下げがあっても良かったようには思う。
序盤で自らの幼少期を語り、キャットへ「助言だ」と語りかける。前話での、「すべてを手に入れたのに何故戦うのか?」という問いに対しての「戦うことが重要なんだ」という言葉や、今回の「堕落していった奴らと俺は何が違う?
度胸だよ」という言葉にしろ、その刺激を求め闘争に溺れる姿や、第2話での老いに対する恐怖、第3話での、侵入者に怯える死への恐怖……それでいて、キャットに撃たれた際には「良かったよ、お前で」と満足気に死んでいく。
全8話かけて確かにキャラクターとしての積み上げはなされていたが、何を考え、何を求めていたのかはハッキリと語られないままだった。
「人は自分が与えたいものを身勝手に渡すだけだ」
「嘘だ、(キャットは)与えられるのが好きだった」
と、与えることこそが最大の支配であるというシルバーメインの在り方についても、貧しく悲惨な幼少期の裏返しなのだろうが、その裏にあったシルバーメイン自身の感情は、もう少し見せてくれても良かったような気がするのだ。
結果的に、ドラマ全8話の中では中盤からの登場である割に、語り続けることでその底の浅さを露呈したヴィランであるメガワットと、言葉少ななシルバーメインは良い対比関係にはなっていたと思うが、もう少しシルバーメインの魅力を物語の中で語ることは出来たように思う。
原作『スパイダーマン』コミックスにおけるシルバーメインは後にサイボーグ化して復活するキャラクターでもあるので、今後シリーズが継続すれば復活して物語が深掘りされることもあるかも知れない。
そうした意味では、今作においてはこのくらいに留めておいて良かったとも言える。これ以上描写を増やすなら、それこそ後1〜2話分の尺が必要になっただろう。
ザ・スパイダーの再誕=ドラマのスーパーヒーロー作品への回帰とオマージュ
今回は最終話ということもあり、ドラマ全体に『スパイダーマン』シリーズへのオマージュが多く含まれており、そんなところにも明確に今作がスーパーヒーローの物語へ回帰していくのを表している。
シルバーメインとの会話の中でベンが言う
「指で耳を塞ぎ頭の中をのぞき見るのか?」
は、MCU映画『デッドプール&ウルヴァリン』(2024)でヴィランであるカサンドラ・ノヴァが行った攻撃を想起させるし、フリントとの戦いで両手のウェブで車を掴み、2台で潰そうとする姿にはライミ版『スパイダーマン2』で電車を止めようとしたスパイダーマンの姿が浮かぶ。
フリントによってマスクの下半分が千切られて戦う姿は歴代スパイダーマンの誰もが一度は見せる姿であるし、戦闘中にメガワットが歌う童謡「Itsy Bitsy Spider(ちっちゃなクモさん)」は、『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)の劇伴の一部にこの旋律が使われている。
この使われてるシーンに関してはヴィラン:エレクトロとの戦いの最中であり、今作でも電気を使うメガワットが歌っているのは偶然とは言えないだろう。
この他にも筆者が気づいていないオマージュは多々あると思われ、原作やスパイダーマンシリーズの知識が深い人はより楽しめる作りになっているだろう。
ベンはザ・スパイダーに帰り、シリーズも『スパイダーマン』へと還る。だからこそラストの戦いで、ベンは最後に残った解毒剤をフリントに打たせる。
ベンは解毒剤を打たず、これからもザ・スパイダーで在り続ける。フリントを生かし、人間である自身を殺す。『スパイダー・ノワール』世界のスパイダーマンは、こうして生まれた。これまで“ザ・スパイダー”として呼称されてきた存在を、この最後の戦いでメガワットが一度「スパイダーマン」と呼んでいるのもそのためだろう。
ヴィランたちに解毒剤を打つことで改心させる展開はそれそのものが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)のオマージュでもあるので、やはりこの最終回へ繋がるように計算づくで作られた物語展開だったのだと思う。
オマージュしているのがスパイダーマンやデッドプールなど、原作においてスパイダーマンと深く関わるキャラクターの作品ばかりなのも、製作者のこだわりを感じる部分だ。
ちなみに、「Itsy Bitsy Spider(ちっちゃなクモさん)」にしろ「スパイダーマン」の台詞にしろそれが聞けるのは字幕版のみであり、スパイダーマンに関しては字幕には書かれていない。
童謡は吹き替え版では別のメロディに差し替えられているので、そちらしか観ていない方は該当シーンを是非字幕版でも確認してみてほしい。
第2シーズンへの期待
ラストは、ベンたちレギュラー陣の新たなる物語の幕開け。
探偵社にベン、ロビー、ジャネット、フランキーが集まり、それぞれの仕事に戻っていく。
ロビーはデイリー・ビューグルを辞め劇中ライバル社として語られたヘラルド社を手に入れたようで、これは今回のザ・スパイダーの復活を記事にしたからだろうし、フェイバーの研究所の記事を書いていたからだろう。
フランキーも、正式に事務所の手伝いとして出入りするようになっており、身なりもよくなっている。顔の汚れメイクもなくなっているので、暮らしも改善されたのではないだろうか。
第4話では二日酔いでボロボロのベンにシャワーを浴びて髭を剃れとも言っていたので、本来は綺麗好きな少年なのだろう。
探偵社は《ライリー・ルイス探偵社》となり、ジャネットは秘書から探偵として共同の経営者となった。
ベンが「君の方が優秀な探偵だ」と言った通り、対等な友人として、対等な関係性で社を続けることにしたのは、シルバーメインとキャットの関係性との対比でもある。
ラストでベンがウェブで帽子を取る姿は、かつてのショーン・コネリーやロジャー・ムーア時代の007が、Mのオフィスで帽子を投げるシーンのオマージュにも感じる。
(『007/スカイフォール』(2012)でセルフオマージュされた有名なシーン)
今作はスパイダーマンらしくないお洒落な会話劇や、フィルム・ノワール的な重厚なストーリーが楽しめ、ラストにはアクション・ヴィランとの戦闘も用意された新しいスパイダーマンのドラマとして非常に楽しめた。
『スパイダーマン』というこれまでのシリーズに今一つハマり切れなかった人にもオススメできる作品であるし、シーズン・レギュラーキャストの継続も大いに期待したい。
シルバーメインと違いメガワットの死は明確に描かれず、ルビーの事件もまだすべては描かれていない。何の能力も持たず解毒剤を打たれたロビーにしても、今後何かしらの影響があってもおかしくはない。
まだ、物語は語れるはずだ。
ライリー・ルイス探偵社の名称には、NetflixからDisney+ドラマへと体制が移ったドラマ『デアデビル』の《ネルソン・マードック&ペイジ弁護士事務所》を思い出し、『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1(2025)の展開を思うと不安も湧き起こってしまうが、このレギュラー陣は、皆無事にベンを支え続けてほしいと思う。デアデビルもまた原作においてスパイダーマンと密接なキャラクターであるのも含め、本当によく出来たドラマであった。
1930年代のNYへ向かいたい人は観る・購入する
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